「弾丸」と「ヒマワリ」。一見すると、まったく関係のなさそうな二つの言葉が、読み終わるころには妙にしっくりくる。
箕輪尊文『弾丸とヒマワリ』は、第72回江戸川乱歩賞を受賞したミステリー。物語は、女子高生が自宅で銃殺され、その手に国連平和維持活動(PKO)に参加した自衛隊員へ授与された名誉のメダルが握られていた、という奇妙な事件から始まる。
事件を追うことになるのは、元自衛隊員の本庄恵梨香。退官後はピザ屋の配達員として働いていたが、この事件によって重要参考人として警察から目をつけられる。
一方、恵梨香と同じ戦地でのトラウマを抱えて退官し、薬物に手を出して売人にまで落ちぶれた野島武のもとには、元地下アイドルの南川杏子が現れる。
そして杏子は、野島にこう頼む。
「人を殺せるクスリを用意できないか」
ここから現在と過去が交錯しながら、女子高生の殺人、自衛隊員、PKO、戦地でのトラウマ、薬物、いじめ、地下アイドルなど、ばらばらに見える要素が少しずつ一本の線につながっていく。講談社も本作を「交錯する現在と過去」と紹介している。
この作品でまず印象に残るのは、自衛隊やPKOという題材をかなり物語の中心に置いていることだ。
ミステリーというと、殺人事件の謎を解くことが中心になりがちだが、本作では「人は何のために戦うのか」「人を守るとは何なのか」というところまで話が広がっていく。
しかも恵梨香は、自衛隊を退官して華々しい第二の人生を送っているわけではない。ピザの配達員として暮らしている。
同じ戦地にいた野島は、さらに悲惨な状態になっている。
戦争やPKOという大きな出来事が終わったからといって、人間の中に残ったものまで消えるわけではない。
むしろ帰国してからの人生のほうが長い。
このあたりが本作の重さでもあり、単なる「自衛隊ミステリー」で終わらないところだと思う。
そして物語のもう一つの軸になるのが、南川杏子という元地下アイドルの存在。
「人を殺せるクスリ」を求める彼女と、薬物に手を染めた野島が出会う。
この設定だけを見ると、かなり犯罪小説らしい。
しかし、そこに女子高生の殺人事件と自衛隊の過去が絡んでくることで、単純な薬物犯罪の話ではなくなっていく。
一見すると関係のない人物たちが、実は過去の出来事によってつながっている。
この「誰と誰が、なぜつながっているのか」を追っていくのが本作の大きな読みどころだろう。
実際、選考委員の有栖川有栖は「最初のトリガーが秀逸」、横関大は「物語をぐいぐいと進めて読ませる力がある」と評価している。黒川博行はセリフの自然さ、貫井徳郎はリアリティを長所として挙げている。
確かに、最初の事件の「女子高生の手に自衛隊員のメダル」という組み合わせが強烈だ。
なぜ女子高生がそんなものを持っていたのか。
誰から手に入れたのか。
なぜ殺されたのか。
そして、そのメダルを持っていることは、過去のPKOとどうつながるのか。
読者としては当然、そこが気になる。
しかも「メダル」というのが面白い。
ただの証拠品ではなく、戦地で任務にあたった人間の「誇り」や「記憶」を象徴するものだからだ。
だから「弾丸」と「ヒマワリ」というタイトルも、単なる事件と平和の対比ではないのだと思う。
弾丸は、一度放たれれば一直線に飛んでいき、途中で引き返すことができない。
人間の行動も同じで、一度放ってしまった言葉や暴力は、あとから取り消すことができない。
一方、ヒマワリは太陽に向かって伸びる植物だが、強風や雨があれば曲がったり、うなだれたりもする。それでもまた光のほうを向いて伸びていく。
本作についての書評でも、弾丸の「取り返しのつかない直線」と、曲がりながらも再び光を探すヒマワリが対照的に論じられている。
ここまで考えると、タイトルの意味がかなり見えてくる。
人間の人生は弾丸のように一直線には進まない。
戦地で傷ついた人間が、その後の人生で道を踏み外すこともある。
いじめによって誰かを恨むこともある。
地下アイドルとして夢を追っていた人間が、いつの間にか別の場所に流されてしまうこともある。
でも、そこで終わりではない。
曲がってしまった人間が、もう一度光のほうを向くこともある。
この作品は殺人事件を扱ったミステリーでありながら、最終的には「傷ついた人間が、その後どう生きるのか」という物語なのだと思う。
乱歩賞というと、奇抜なトリックや意外な犯人を期待してしまうが、『弾丸とヒマワリ』はそれだけを狙った作品ではない。
むしろ、ミステリーを使って、自衛隊、PKO、戦争のトラウマ、薬物、いじめ、若者の孤独など、現代社会のいろいろな問題を一つの物語に押し込んでいる。
そのため、読み終わったあとに残るのは「犯人は誰だったのか」という謎解きだけではない。
人間は過去に撃ち込んでしまった「弾丸」を取り戻せない。
それでも、曲がりながら、傷つきながら、ヒマワリのように光の方向へ向かうことはできる。
「勇気と誇りとやさしさの物語」と紹介されているのも、読み終わると納得できる。
ミステリーとして事件の謎を追いながら、最後には「人を守るとはどういうことなのか」「過去に傷ついた人間はどう生き直せるのか」まで考えさせられる。
第72回江戸川乱歩賞は、なかなか重たいものを投げ込んできたな、という印象の一冊だった。

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