漢字の「左」は一画目が横だが「右」は一画目が斜め(はらい)である。
なぜ、このような違いがあるのだろうか?
簡単に言ってしまえば、漢字のもとになった「甲骨文字の段階で成り立ちがちがう」からである。
左は左手と工具(道具)のカタチ
「左」という漢字は、古い時代の文字の形を見ると、左手で道具(工)を扱っている姿をかたどってできた文字です。左手を表す部分は、古代の書体では横に伸びた線で安定して描かれることが多く、その横棒の上に、のみのような道具を表す「工」が添えられていました。
古代の人々が描いた“左手の形”そのものが横向きで安定した形で表現されており、その流れが現代の筆画にも受け継がれているのです。
つまり、現在の「左」という字の書き方は、単に書きやすさや筆順の都合ではなく、左手の象形が横向きに描かれていたという歴史的由来の名残なのです。
右は右手と口のカタチ
「右」という漢字は、古い時代の文字の形をたどると、右手で祈りの器(供物を入れる器)を支えて神に祈る姿を表していると考えられています。現代では「口」という部品が入っているため「人の口では?」と思われがちですが、この部分は口(くち)=容器・入れ物を意味する記号として使われており、口そのものではありません。
古代の祭祀では、神前に供える器を両手あるいは片手で高く掲げ、祈りを捧げる所作が重要な儀礼の一つでした。文字の成り立ちにおいても、人々の生活や信仰の動作が強く反映されており、「右」はまさに祈祷や祝詞を捧げる場面をかたどったものとされます。
また、右手を表す部分は、甲骨文字や金文を見ると、斜めに伸びた線や払いの形で描かれていることが多く、その独特の形が現代の「右」の筆画にも受け継がれています。こうした古代の象形が、現在の「右」の一画目が斜めの払いで始まる理由につながっています。
このように「右」は、単なる左右の方向を示す記号ではなく、祈りの所作と右手の形が組み合わさって生まれた、宗教的背景の深い文字なのです。
ちなみに、象形文字は漢字の形のことで年代を意味しない
「象形文字」という言葉はよく耳にしますが、これは漢字がどのように生まれたかという“成り立ち(六書)”の分類を指す言葉であり、「甲骨文字」や「金文」といった時代・書体の分類とはまったく別のカテゴリーに属しています。
象形文字とは、その名のとおりものの形を写し取って作られた文字を意味します。山は山の形、川は流れの形というように、目に見える物体を絵のように描いた最古期の文字の特徴を指す言葉です。ただし「象形」は“成り立ち”の分類なので、必ずしも特定の時代を示すものではありません。
一方で、甲骨文字とは、殷(商)王朝の時代に、亀の甲羅や獣骨に刻まれた文字の総称で、歴史上確認されている最古の体系的な漢字の姿です。現存する中で最も古く、画数も少なく、象形性が非常に強いことから、もっとも原始的な漢字の形といえます。
その後の時代になると、青銅器に鋳込まれた金文(きんぶん)が登場します。金文は西周から春秋戦国時代にかけて使われ、甲骨文字よりも線が太く、形がのびやかで、書体としての自由度が増しています。社会の変化とともに文字数が増え、象形だけでなく会意や形声といった複雑な成り立ちの文字も多く見られるようになります。

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