『セックスコンプライアンス 』(加藤博太郎)の内容とは?

「好きな人と付き合っているなら、当然セックスにも同意している」……そんな昔なら当たり前と思われていた感覚が、法律の世界ではもう通用しない。

加藤博太郎『セックスコンプライアンス』は、2023年7月の刑法改正によって新設された「不同意性交等罪」を中心に、恋愛や男女関係と法律の境界線を解説する本である。

タイトルだけを見ると、いかにも堅苦しい法律書に思える。しかし実際に扱われるのは、合コン、ナンパ、マッチングアプリ、パパ活、キャバクラ、風俗、そして夫婦関係まで。つまり「犯罪者にならないための専門知識」というより、普通に男女関係を生きている人にも関係する話なのである。

本書の構成は、「不同意性交の定義」から始まり、「夜の街にはびこる性犯罪トラブル」、「親しき仲にも適用される不同意性交」、「性犯罪の嫌疑をかけられないために」と続く。さらに「濡れ衣を着せられないための法律武装」、「性交渉以外に潜む性犯罪リスク」を経て、最後は「不同意性交Q&A」で具体的なケースを確認する構成になっている。

特に興味深いのは、「親しき仲にも適用される不同意性交」という章だ。

恋人なら大丈夫、夫婦なら大丈夫、以前に性交渉をしているから大丈夫、といった人間関係そのものを根拠にした「同意」の考え方が危うくなっていることが分かる。相手との関係ではなく、その時の意思や状況が重要になるわけだ。

これは性犯罪に限った話ではなく、現代社会全体の変化を象徴しているようにも感じた。

昔は「関係性」がかなり強い意味を持っていた。恋人だから、夫婦だから、上司だから、友人だから……。しかし現在は、そうした肩書きや関係性だけで相手の意思を推測することが難しくなっている。

そして本書が面白いのは、被害を防ぐという視点だけでなく、「性犯罪の嫌疑をかけられないために」「濡れ衣を着せられないための法律武装」という、疑いをかけられた側の防衛についてもかなり踏み込んでいるところだ。

性犯罪というテーマでは、被害者を守ることと、無実の人を守ることが対立して語られがちだ。しかし本来は、その両方をどうやって成立させるかが法律の難しいところなのだろう。

本書の副題的な役割を果たしているのが「男女交際の新ルール」という考え方だと思う。

法律が変われば、法律だけでなく社会の常識も少しずつ変わっていく。昨日まで曖昧だった「普通の男女関係」の一部が、今日からは法律上のリスクとして意識されることになる。

しかも本書では、性交渉そのものだけでなく、性交渉以外に潜む性犯罪リスクまで扱っている。つまり「セックスについての本」というより、「親密な人間関係を法律という別の角度から見直す本」と考えたほうが近い。

読んでいると、恋愛という一見プライベートな領域にも、法律という巨大な社会システムが入り込んでいることを実感する。

「そんなことまで法律で考えなければならないのか」と思う一方で、被害者にとっても、加害者として扱われる側にとっても、知らなかったでは済まされない問題なのだろう。

恋愛は自由でも、法律は自由ではない。

そして、相手の気持ちを「たぶんこうだろう」と勝手に解釈することも、これからはますます危険になる。

性についての本でありながら、実は本書が問いかけているのは「他人の意思を、私たちはどこまで正確に理解できるのか」という問題なのかもしれない。

恋愛や結婚を「愛情の問題」とだけ考えている人ほど、一度法律の側から眺めてみると、かなり違った風景が見えてくる本だと思う。

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