『王国』(渚かなえ)の内容とは?

湊かなえの『王国』は、いわゆる「犯人は誰だ?」だけを楽しむミステリーとは少し違う。むしろ、読み進めるほど「この人たちは、いったい何を守ろうとしていたんだろう」と考えさせられる作品だった。

2026年7月に刊行された湊かなえの第30作で、舞台は白珠湾。海を愛する浜崎朔也は、幼いころから抱いていた夢を形にするため、ウェルネス・ツーリズムの会社「海の王国」を立ち上げる。ところが、その夢が動き始めた矢先に悲劇が起こる。作品のキャッチコピーは「珊瑚の女王を殺したのは、誰なんだ?」。しかも、9人全員が何かを隠しているという。

物語の始まりから印象的なのが、「海の底には城がある」というイメージだ。

そこには珊瑚の女王と九人の騎士がいる。実際、第一章は「浜崎朔也」と題され、海を守る騎士たちの寓話のような場面から始まる。海の資源を守るため、禁漁期のロブスターを捕ろうとする若者たちを騎士が止める。

この童話めいた「王国」が、現実の人間関係と重なっていくのが面白い。

朔也がつくった「海の王国」に集まるのは、彼の友人や仲間たち。彼らはそれぞれの人生を抱えながら、海を守るという夢を共有している。しかし、同じ目的を持っていたはずの人間たちの間にも、少しずつ認識の違いや秘密が生まれていく。

そして、善意から始まった行動が、思いもよらない悲劇につながってしまう。

ここが、この作品のかなり湊かなえらしいところだと思った。

「悪い人がいて、善良な人が被害に遭う」という単純な構図ではない。むしろ、それぞれが誰かを思い、何かを守ろうとしている。その結果として、別の誰かを傷つけてしまう。

だから読んでいる側も、「こいつが怪しい」と思っていた人物の事情が明らかになるたびに、単純に責めにくくなっていく。

そしてタイトルの「王国」も、単なる会社名ではないのだと思う。

海の底にある架空の王国。朔也が夢見た場所。仲間たちが守ろうとした場所。そして、それぞれの登場人物が心の中につくっていた小さな王国。

人間は誰でも、自分にとって大切なものを守るために、自分なりの「王国」をつくっているのかもしれない。その王国を守ろうとする気持ちが、時には他人との衝突を生む。

個人的には、ミステリーとして謎を追うよりも、この「守る」というテーマのほうが強く残った。

海を守ることは、今そこにある海だけを守ることではない。未来の誰かに海を残すことでもある。作品の中でも「守る」という行為が繰り返し問われるが、それは環境問題だけではなく、人と人との関係にも重なっているように感じる。

湊かなえというと、『告白』のような人間の悪意やイヤミスを想像する人も多いと思う。しかし『王国』は、もちろん謎と悲劇を扱いながらも、それだけでは終わらない。むしろ読み終わったあとに残るのは、仲間との絆や、時間を越えて受け継がれていくものについての感覚だった。

海の底に城がある。

そんな童話のような一文から始まった物語が、最後にはずいぶん現実的な「人間の王国」の話に見えてくる。

誰かを守ることは、本当にその人のためなのか。それとも、自分が守りたいと思っているだけなのか。

そんなことを考えながら読むと、単なる犯人探しとは違った面白さが見えてくる作品だと思う。

海が好きな人はもちろん、仲間、友情、善意、そして「守る」ということについて考えたい人には、かなり印象に残る一冊ではないだろうか。

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