『ルポ高齢者のセックス』(中山美里)の内容とは?

「高齢者になったら、恋愛も性欲も終わる」。
そんなイメージを持っているなら、この本を読むとかなり印象が変わるかもしれない。

中山美里『ルポ 高齢者のセックス』は、60代から90代までのシニア男女と、その周辺で性に関わる仕事をする人々を取材したルポルタージュ。2024年に扶桑社新書から刊行され、60人以上への取材を通して、高齢者の恋愛、性欲、孤独、出会い、風俗、夫婦関係などを描いている。

本書の目次は全5章。「長らくタブーだった高齢者の性生活」「増える高齢者の『出会いの場』」「社会との関わりの場としての高齢者向け風俗」「QOL向上のためのシニア向け性娯楽」「性欲と向き合う社会へ」と続く。

登場するのは、88歳のAV女優(小笠原祐子)、70代の風俗嬢、シニア向けの出会いの場、既婚者同士の交流、いわゆる「ジジ活」、女性用風俗など。単に性生活の実態を面白おかしく紹介する本ではなく、「高齢者にも当然ながら性欲や恋愛感情がある」という、ごく当たり前なのに社会では語りにくかった事実を掘り起こしている。

特に興味深いのが第1章だ。

「元気に独り暮らしする高齢者が抱える孤独感」「『愛方』的な存在を求めるシニアたち」という項目からも分かるように、高齢者の性の問題は、単なる性的欲求だけでは語れない。

誰かと話したい。
誰かに必要とされたい。
一緒に食事をしたい。
おしゃれをしたい。
異性として見られたい。

そうした欲求が「セックス」という言葉の周辺にまとまって存在している。

つまり本書を読んでいると、「高齢者のセックス」というタイトルが、少しミスリードにも思えてくる。実際に描かれているのは、セックスそのものよりも「老いてから、どう人とつながるか」という問題なのだ。

第2章では、ディスコイベントやマッチング、出会いの場などが登場する。高齢になると仕事や子育てを通じた人間関係が少なくなり、配偶者との死別や離婚によって一人になることもある。そこで、新しい人間関係を作る場所が必要になる。

第3章の「社会との関わりの場としての高齢者向け風俗」という視点も面白い。

風俗というと、普通は性的欲求を満たす場所と考える。しかし本書では、そこが高齢者にとって外出する理由になったり、人と会話する機会になったりする側面も描かれている。

女性用風俗を利用するシニア女性についても取材されている。記事では、夫婦間のセックスについて「射精することがセックス」という固定観念が問題になるケースも紹介されている。

ここはかなり考えさせられるところだ。

性についての常識は、若者だけの問題ではない。むしろ高齢者ほど、「夫婦とはこういうもの」「男とはこういうもの」「女とはこういうもの」という昔ながらの価値観に縛られている場合がある。

そして第4章では、フェムテックや下着など、シニアの性を支える商品やサービスが登場する。「70代の男性が妻に下着をプレゼント」という項目まであるのだから、なかなか攻めている。

個人的に一番重要だと思ったのは、第5章の「性欲と向き合う社会へ」である。

ここでは障害者の性についても触れられる。「身体が不自由なのだから性欲もないだろう」という偏見を取り上げているのだが、これは高齢者にもそのまま当てはまる。

高齢者を「性的な存在ではない」と考えてしまうこと自体が、ある種の偏見なのだろう。

若者には「恋愛しろ」「結婚しろ」と言うのに、高齢者が恋愛すると「いい歳をして」と言う。若者の性欲は自然なものとして扱うのに、高齢者の性欲はなかったことにする。

考えてみれば、かなり不思議な話である。

本書に登場する人々の姿を見ていると、人間は年齢を重ねても、誰かとつながりたいという欲求を簡単には失わないことが分かる。実際、取材された高齢者の中には、異性との関わりによって生活に張り合いが生まれたと語る人もいる。

もちろん、高齢者の性を無条件に「健康にいい」「人生を豊かにする」と美化する必要もない。金銭、孤独、依存、夫婦関係、病気、介護など、年齢を重ねたからこそ生まれる問題もある。

だからこそ、性を「恥ずかしいもの」として隠すのではなく、一人の人間の生活や幸福の一部として考える必要があるのだと思う。

高齢者のセックスを笑う前に、自分もいつか高齢者になる。

その当たり前の事実に気づかされる本だった。

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