「もしかすると、世界は自分が思っているほど単純ではない。」
陰謀論という言葉を聞くと、荒唐無稽な妄想を思い浮かべるかもしれない。ところが『パラノイア合衆国』を読むと、話はそれほど単純ではないことに気づかされる。
著者のジェシー・ウォーカーは、アメリカで繰り返し登場してきた陰謀論を、単なる「間違った情報」として片付けない。
なぜ人々は、世界の出来事の背後に「誰かの意図」を見つけたくなるのか。
目次を眺めるだけでも、「陰謀の歴史」「パラノイアの政治学」「文化の地下水脈」といった、いかにも怪しげで、それでいて妙に知的好奇心を刺激される言葉が並ぶ。
読み進めていくと、陰謀論は決して一部の変わった人たちだけのものではないことがわかってくる。
政治家も、ジャーナリストも、知識人も、一般の人々も、時代ごとに「世界を裏で動かしている何者か」を想像してきた。
独立戦争、南北戦争、世界大戦、冷戦、ウォーターゲート事件……。
社会が大きく揺れるたびに、「表に見えているものとは別の真実があるのではないか」という疑念が生まれる。
ここが、この本の面白いところだと思う。
陰謀論は「頭のおかしい人が信じるもの」なのではなく、複雑すぎる現実を理解しようとする、人間の一つの思考方法でもある。
もちろん、だからといって陰謀論が正しいわけではない。
むしろ怖いのは、陰謀論が現実の出来事を説明する力を持ってしまうことだ。
「誰かが裏で操っている」と考えれば、偶然や複雑な事情を考えなくても世界を説明できる。敵も明確になる。物語としても非常にわかりやすい。
そして現代では、インターネットやSNSによって、その物語が一瞬で広がっていく。
陰謀論を笑って終わらせるのは簡単だ。
しかし、この本を読むと、むしろ「なぜ人間は陰謀論を必要とするのか」と考えたくなる。
もしかすると、陰謀論とは世界についての物語であると同時に、世界があまりにも複雑で、自分には理解できないという不安に対する物語なのかもしれない。
そう考えると、陰謀論は急に他人事ではなくなる。
「自分だけが真実を知っている」と思った瞬間、人は何を見落とすのだろう。
陰謀論を信じる人々を観察する本だと思って読み始めたら、最後には「自分自身も世界を都合のいい物語に変換していないだろうか」と問い返される。
アメリカ史を陰謀論という奇妙なレンズから眺めてみると、これまでとは違った世界が見えてくる。
そして、その世界は思っていた以上に、私たちの世界とつながっている。

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