『ツルモク独身寮』(窪之内英策)の内容とは?

『ツルモク独身寮』は、家具メーカー「ツルモク家具」に入社した18歳の宮川正太を主人公に、独身寮で暮らす若者たちの恋愛、友情、仕事、そして成長を描いた青春漫画だ。1988年に連載が始まり、全11巻で完結している。

一見すると、女子寮をのぞいたり、恋愛で右往左往したり、先輩たちがくだらないことで騒いだりする、かなり軽いラブコメに見える。しかし読み進めていくと、これは「会社に入ったばかりの若者が、仕事と恋愛を通して大人になっていく話」なのだと分かってくる。

しかも、この漫画の面白さは、主人公だけが成長していく物語ではないところにある。

正太は高知から上京し、ツルモク家具の独身寮に入る。そこで同室になるのが、女に縁がない田畑重男と、プレイボーイの杉本京介。この三人が性格も価値観もまったく違うため、最初から妙に騒がしい。

第1巻のエピソードタイトルを見るだけでも、「ようこそ!」「まずい!」「やばい!」「きちゃった…」「だいじょうぶ。」「耐えられない。」「アホンダラ。」と、とにかく勢いがある。

そして正太は、女子寮の姫野みゆきに惹かれていく一方で、故郷には恋人のともみがいる。この三角関係が物語の大きな軸になる。

ただ、恋愛漫画としてだけ読むと、この作品の魅力をかなり取り逃がしてしまう。

たとえば第2巻では「男は度胸!!」「つらいんだから…」「甘ちゃん。」「立てよ若人!」といったタイトルが並び、第3巻になると「負けるもんか!!」「やってやろうじゃねえか!!」「正太君えらいっ!!」など、仕事や自分自身との戦いを思わせるタイトルが増えていく。

実際、物語の舞台は「独身寮」だけではない。ツルモク家具という会社そのものが、若者たちが社会人として成長していく場所になっている。

特に面白いのが、新しい工場長として鶴谷ヒサ子が登場するあたりだ。業績不振の工場に厳しいノルマを課し、現場の人間たちと衝突する。正太も彼女に反発しながら、新しい家具のデザインに挑戦することになる。

つまり、最初は「東京に出てきた田舎の少年が、寮で女の子と恋をする話」だったものが、次第に「自分は何をしたいのか」「仕事とは何なのか」「誰と一緒に生きていくのか」という話へ広がっていく。

そして、ここが『ツルモク独身寮』のいちばん好きなところだ。

登場人物たちは、別に立派な人間ではない。嫉妬するし、見栄を張るし、恋愛で失敗するし、仕事から逃げたくもなる。それでも、誰かに背中を押されたり、悔しい思いをしたりしながら、少しずつ前へ進んでいく。

だから、この漫画を今読むと、80年代の青春漫画というより、「社会人になるとはどういうことなのか」を描いた漫画として妙にリアルに感じる。

若いころには単純な恋愛コメディとして読める。でも年齢を重ねてから読むと、田畑や杉本のような脇役たちまで含めて、それぞれが自分の人生を抱えていることに気づく。

そして独身寮という場所も面白い。会社と家の中間にあるような空間で、仕事仲間と生活を共有する。恋愛も友情も失敗も全部そこに持ち込まれる。今ではかなり特殊に見える環境だが、だからこそ「会社に入ったばかりの若者たちが、半分子供のまま社会人になっていく」という時代の空気が濃厚に残っている。

『ツルモク独身寮』は、恋愛漫画であり、会社漫画であり、青春漫画でもある。

そして何より、「若いころは、毎日くだらないことで笑っていた」という感覚を思い出させてくれる漫画だと思う。

人生は、案外こういう「ようこそ!」から始まってしまうのかもしれない。

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