『SEX20億年史 生殖と快楽』(デイヴィッド・ベイカー)の内容とは?

「セックスは、いつからセックスになったのか?」

そんな疑問から始めてしまうと、生命誕生から現代までの歴史が、まったく違って見えてくる。

デイヴィッド・ベイカー『SEX20億年史 生殖と快楽の追求、そして未来へ』は、タイトルどおり「性」を20億年という途方もない時間軸から眺める本である。2025年3月刊、原題は『THE SHORTEST HISTORY OF SEX』。生物の進化だけでなく、人類の文化や社会まで視野に入れて、セックスがどのように変化してきたのかを追っていく。

目次からしてかなり面白い。

第1部「進化する前戯」では、「ファックできない宇宙」「水面下の暗中模索」「ティラノサウルスのセックス」と続く。第2部は「霊長類の絶頂(オーガズム)」で、「オーガズム時代の夜明け」「モンキー・ビジネス」「火星から来たチンパンジー、金星から来たボノボ」「直立(エレクトゥス)を始める」。そして第3部「文化の残光」では、「セックスと文明」「近代革命」「セックスの未来」へと進んでいく。

つまり、単なる「性の雑学本」ではない。セックスを軸にして、生物の進化から人類の文明までを一気に眺めようという本なのだ。

特に面白いのは、そもそも「なぜセックスが存在するのか」というところまで話が戻ってしまうことだ。

本書によれば、20億年前、地球は「スノーボール・アース」と呼ばれる全球凍結状態に近い環境を経験した。その過酷な環境のなかで、DNAを交換して遺伝的な多様性を生み出す仕組みとして、セックスにつながる生殖が登場したと説明される。

ここが本書の一番大きな視点だと思う。

人間から考えると、セックスは恋愛や快楽、結婚、家族などと結びついた極めて個人的な行為に見える。しかし生命史という巨大なスケールから眺めると、そのはるか以前から「遺伝情報を混ぜる」という仕組みが存在していた。

そして進化が進むにつれて、生殖は単純なDNAの交換だけではなくなっていく。

相手を選ぶ。相手に選ばれる。競争する。魅力をアピールする。快楽を利用する。子育てをする。群れの関係を維持する。

セックスはいつの間にか、生殖だけでは説明できないほど複雑なシステムになっていく。

第2部でチンパンジーとボノボが登場するのも興味深い。人間に近縁な霊長類でも、性行動と社会構造にはかなりの違いがある。そこから「人間の性は本当に自然なものなのか、それとも文化によって作られたものなのか」という疑問が浮かんでくる。

さらに第3部になると、「セックスと文明」「近代革命」へ話が広がる。

ここまで来ると、セックスは単なる生物学ではなくなる。結婚制度、家族、男女関係、権力、宗教、社会規範など、人間社会のかなりの部分に関係してくるからだ。

本書の「セックスについて私たちが知っていると思っていることは、氷山の一角にすぎない」という趣旨の言葉は、この本全体をよく表していると思う。

普段、私たちはセックスをあまりにも人間中心に考えている。しかし20億年前まで時間を巻き戻すと、そこには恋愛も結婚もなく、ただDNAを次世代へつなぐ生命の試行錯誤がある。

そこから長い進化の時間を経て、快楽や嫉妬や恋愛や結婚や家族が生まれ、さらに現代では性の多様性や人工生殖、テクノロジーによる性の変化まで登場する。

そう考えると、セックスとは「子どもを作るための行為」というより、生命が20億年かけて作り上げてきた、とんでもなく複雑な仕組みなのかもしれない。

「自分はなぜ異性を好きになるのか」「なぜ人間には性的な欲望があるのか」といった身近な疑問を、20億年という時間の彼方まで持っていってしまう。

タイトルは刺激的だが、中身はかなり壮大。

セックスから生命を考え、生命から人類を考え、最後には「人間とは何なのか」というところまで戻ってくる。そんな、ちょっと変わった進化史の本である。

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