『炎のゴブレット』(J・K・ローリング)の内容とは?

『炎のゴブレット』は、これまでの「ホグワーツで一年を過ごして、最後に大事件が起こる」という構成から、一気に話の規模が大きくなる。クィディッチの世界大会、外国の魔法学校、三大魔法学校対抗試合、ドラゴン、闇の魔法使いと、舞台がホグワーツの外へ広がっていく。そして最後には、とうとうヴォルデモートが完全な肉体を取り戻す。ここから『ハリー・ポッター』は、学校生活を舞台にした冒険小説では済まなくなってくる。

冒頭の「リドルの屋敷」からして、それまでとは雰囲気が違う。ハリーではなく、屋敷の庭師フランク・ブライスの視点から始まり、そこでヴォルデモートとピーター・ペティグリューが何かを企んでいることが描かれる。つまり読者は、ハリーたちより先に「何かとんでもないことが起こる」と知らされる。ハリーの額の傷が痛む「傷跡」、ウィーズリー家からの「招待」、そして魔法界の大イベント「クィディッチ・ワールドカップ」へと話が進む。目次を見ても「闇の印」「魔法省の騒動」と、不穏な言葉が早い段階から並んでいる。

ワールドカップでは、魔法使いたちが大勢集まる一方、試合の後に死喰い人たちが現れ、空に「闇の印」を打ち上げる。死喰い人とは、ヴォルデモートに従う魔法使いたちの集団だ。これまで昔の事件として語られていたヴォルデモートの勢力が、実際に動き始めている。

ホグワーツでは三大魔法学校対抗試合、つまり三校から選ばれた代表選手が危険な課題を競う大会が開催される。ボーバトン校とダームストラング校からも生徒がやってきて、セドリック・ディゴリー、フラー・デラクール、ビクトール・クラム、そしてハリーが代表選手になる。

ところがハリーは年齢制限に引っかかっている。それなのに「炎のゴブレット」からハリーの名前が出てしまう。

本人が立候補したわけでもないのに、魔法の契約によって参加せざるを得なくなる。このあたりから、ハリーは「選ばれし者」という立場を本人の意思とは関係なく背負わされていくことになる。

大会では「ハンガリー・ホーンテール」という凶暴なドラゴンとの対決、水中で人質を救出する第二の課題、迷路を進む第三の課題が行われる。途中には「屋敷しもべ妖精解放戦線」や「忍びの地図」ならぬ今回は新聞記者リタ・スキーターの騒動、「憂いの篩」という記憶を見るための魔法道具なども登場し、学校生活らしい話もまだ残っている。

そして「第三の課題」で、物語は完全にひっくり返る。

迷路を抜けたハリーとセドリックは、優勝杯を同時につかむ。しかし、その杯は「ポートキー」という魔法の移動装置に変えられていた。二人が連れていかれたのは墓地。そしてピーター・ペティグリューによってセドリックが殺される。

ここはシリーズの大きな転換点だと思う。これまでは危険な魔法生物や敵と戦っても、どこか「学校の冒険」という枠に収まっていた。それがここでは、同級生が本当に殺される。

さらにペティグリューは、ハリーの血、ヴォルデモートの父親の骨、自分自身の肉を使った儀式によって、ヴォルデモートの肉体を復活させる。ヴォルデモートはもう「過去の恐怖」ではない。肉体を持った存在として戻ってくる。

ハリーとヴォルデモートが杖を交える場面では「プリオリ・インカンターテム」という現象が起こり、ヴォルデモートの杖から過去に殺された人々の影が現れる。そしてハリーはなんとか逃げ帰るが、セドリックの遺体を抱えて戻ってくる。

さらに最後の「真実薬」では、今年ホグワーツで「マッド・アイ・ムーディ」として教師をしていた人物の正体が明らかになる。実は死喰い人バーティ・クラウチ・ジュニアが、変身薬でムーディになりすましていた。ハリーを代表選手に仕立て上げ、第三の課題まで勝ち残らせ、優勝杯をポートキーにしたのも彼だった。

そして最も重要なのが、最後の「始まり」という章題である。終わったのではなく、ここから始まる。

魔法省のファッジはヴォルデモートの復活を認めようとしない。しかしダンブルドアはハリーの話を信じる。ヴォルデモートが戻ったという事実を認めるかどうかで、魔法界そのものが割れ始める。

『賢者の石』では「魔法の世界に入ること」が物語だった。『秘密の部屋』ではその世界の危険が見え、『アズカバンの囚人』では過去の事件の真相が明らかになった。そして『炎のゴブレット』では、その過去の敵が現在に戻ってくる。

最後に確信できるのは、もう「ヴォルデモートが帰ってくるかもしれない」という段階ではないということだ。帰ってきた。しかも、ハリーの血を使って。

タイトルの「炎のゴブレット」は大会の代表者を選ぶ魔法の杯だが、結果的にはハリーを墓地へ運ぶための罠にもなっていた。楽しい学校行事だと思っていたものが、実はヴォルデモート復活のための計画に組み込まれていたわけである。

この結末によって、ハリー・ポッターは「ホグワーツの少年が成長していく物語」から、「ヴォルデモートの復活によって魔法界そのものが戦争へ向かっていく物語」へ変わった。『炎のゴブレット』は、その境目になる一冊だったと思う。

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