『アズカバンの囚人』(J・K・ローリング)の内容とは?

『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』は、前二作とはかなり違う。ヴォルデモートと直接対決する話ではなく、ハリーの両親が殺された夜に何が起きたのか、その真相を追っていく話になっている。

しかも、最後まで読むと「犯人は最初からすぐそばにいた」という、かなりうまい仕掛けになっている。

物語は「ふくろう便」「マージおばさんの大失敗」「夜の騎士バス」から始まる。夏休み中、ハリーはダーズリー家でマージおばさんから両親を侮辱され、怒りのあまり彼女を風船のように膨らませてしまう。そして家を飛び出したところで、魔法使い専用の夜の騎士バスに乗ることになる。そこで聞かされるのが、アズカバンから脱獄したシリウス・ブラックの話だ。目次も「吸魂鬼」「リーマス・ルーピン」「グリフィンドール対ハッフルパフ」「マージおばさんの大失敗」など、これまで以上に不穏なものが並ぶ。

シリウス・ブラックは、ハリーの両親ジェームズとリリーをヴォルデモートに売った裏切り者だとされている。そしてピーター・ペティグリューという男を殺し、さらにマグルまで大量に殺害したため、アズカバンに収監されていた。そんな男が脱獄し、ハリーを狙っている。

当然、ハリーもシリウスを憎む。

ホグワーツへ向かう列車の中では、吸魂鬼が現れる。アズカバンの看守である吸魂鬼は、人間から幸福な感情を奪い取る存在で、ハリーは他の生徒以上に強く影響を受けて気を失ってしまう。そこで助けてくれるのが、新しい「闇の魔術に対する防衛術」の教師、リーマス・ルーピンだ。ルーピンは後にハリーへ守護霊の呪文を教えることになる。

一方、学校生活では「ホグズミード」「忍びの地図」「ファイアボルト」など、楽しい要素も出てくる。

忍びの地図は、ホグワーツの中を歩いている人間の名前まで表示する魔法の地図。フレッドとジョージからハリーに渡されるのだが、そこに記された「ムーニー」「ワームテール」「パッドフット」「プロングズ」という名前が、後になって重要な意味を持ってくる。

そして、ハリーの前に何度も現れる巨大な黒い犬。

占い学のトレローニー先生は、それを死の前兆である「グリム」だと考える。ハリー自身も、自分を殺しに来たシリウス・ブラックではないかと思う。

さらにロンのペット、ネズミのスキャバーズをめぐって、ロンとハーマイオニーまで喧嘩する。ハーマイオニーの猫クルックシャンクスがスキャバーズを狙っているからだ。

そして、ヒッポグリフのバックビークがドラコ・マルフォイを傷つけたことで処刑されることになり、ハリー、ロン、ハーマイオニーはハグリッドを助けようとする。このあたりは学校生活の小さな事件に見えるのだが、実は最後の展開にまでつながっている。

そして「叫びの屋敷」で、物語が一気にひっくり返る。

黒い犬の正体はシリウス・ブラックだった。

ところが、シリウスはハリーを殺しに来たのではなかった。

本当に探していたのは、ロンのペット、スキャバーズだった。

スキャバーズの正体はピーター・ペティグリュー。

12年前、ハリーの両親をヴォルデモートに売った本当の裏切り者はシリウスではなく、ペティグリューだったのである。しかもペティグリューは死んだと思われていたが、ネズミに変身してスキャバーズとして何年もウィーズリー家で暮らしていた。

つまり、犯人はずっとロンのポケットにいた。

この展開はかなりうまい。読者は「シリウス・ブラックという危険な犯罪者」を追いかけていたつもりなのに、実際にはずっと別の人物を見ていたことになる。

さらに、ルーピンとシリウスが旧友だったことも分かる。

ルーピン、シリウス、ジェームズ、ペティグリューは学生時代の親友だった。ルーピンが狼人間だったため、満月の夜に彼と一緒に行動するため、他の三人は動物に変身する「動物もどき」になった。

ムーニーはルーピン。
パッドフットはシリウス。
プロングズはジェームズ。
ワームテールはペティグリュー。

「忍びの地図」に書かれていた名前が、ここですべてつながる。

そしてルーピン自身も狼人間だったことが明らかになる。普段は穏やかな教師なのに、満月になると理性を失う。この作品では、見た目や評判だけでは人間の正体は分からないということが繰り返し描かれている。

シリウスは12年間もアズカバンに入れられていたのに、本当は裏切り者ではなかった。

一方、ロンが長年かわいがっていたスキャバーズは、実はヴォルデモートに仕えた裏切り者だった。

善人と悪人の配置が、ここまで一気に入れ替わる。

そしてハリーにとって、もう一つ大きな事実が明らかになる。

シリウスはハリーの名付け親だった。

しかもシリウスは、ハリーを殺すどころか、自分の家で一緒に暮らそうと誘う。

「ダーズリー家から出られる」

ハリーにとっては、これ以上ない話だったはずだ。

ところが、そこですべてがうまくいくわけではない。満月になり、ルーピンが狼人間に変身する。混乱の中でペティグリューは逃げ出し、シリウスも傷ついてしまう。そして大量の吸魂鬼がシリウスとハリーたちを襲う。

ハリーは守護霊を出そうとするが、力が足りない。

そのとき、非常に強力な牡鹿の守護霊が現れて、吸魂鬼を追い払う。

ハリーは遠くにいる人物を見て、それが父親のジェームズだったのではないかと思う。

ところが実際に守護霊を出していたのは、未来のハリー自身だった。

ここでハーマイオニーが使っていた逆転時計が登場する。二人は数時間前に戻り、バックビークを処刑から救い、シリウスも助ける。つまり、ハリーが過去を変えたというより、「過去に起きたと思っていた出来事の一部を、未来から来たハリーたちが最初から起こしていた」という構造になっている。

結末まで読むと、最初の「シリウス・ブラックがハリーを殺しに来た」という話は完全に覆る。

しかし、完全なハッピーエンドにもならない。

ペティグリューは逃げてしまう。シリウスは無実だと判明したものの、正式に名誉を回復することはできず、逃亡生活を続けることになる。ルーピンも狼人間であることが知られ、ホグワーツを去ることになる。

それでもハリーには大きな変化がある。

これまでハリーにとって両親は、「ヴォルデモートに殺された父と母」だった。それが今回、両親の親友だったシリウスとルーピンを通して、学生時代のジェームズたちの姿を知ることができた。

そして、自分を本当に家族として迎えてくれる人間がいることも分かった。

『賢者の石』がハリーの魔法界への入口、『秘密の部屋』がヴォルデモートの過去を知る話だったとすれば、『アズカバンの囚人』はハリー自身の過去を知る話なのだと思う。

そして最後に残るのが、ペティグリューの逃亡だ。

ヴォルデモートはまだ復活していない。しかし、ヴォルデモートの忠実な僕が一人、生きたまま逃げている。

つまり、この巻の結末で「ヴォルデモートとの話はまだ終わっていない」ということが、かなりはっきりする。

むしろ怖いのは、ここからだ。

『アズカバンの囚人』では、敵だと思っていた人間が味方になり、味方だと思っていた存在が敵だったことが分かる。しかも、その真相が魔法学校の授業、ペットのネズミ、古い地図、ヒッポグリフの処刑問題まで全部つながっている。

三作目にして、単なる「魔法学校での冒険」から、「過去に何があったのかを知ることで現在の見え方が変わる物語」へ変わってきた。

そして、ペティグリューが逃げた。

この一点だけで、次の巻を読まない理由がなくなってしまう。

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