『謎のプリンス』(J・K・ローリング)の内容とは?

『不死鳥の騎士団』でヴォルデモートの復活が公になったと思ったら、『謎のプリンス』では、今度は魔法界そのものが戦争状態に入っていく。しかも、この巻で明らかになるのは敵の正体だけではない。ハリーが最後に向き合うことになる「倒し方」まで見えてくる。

冒頭の「もう一人の大臣」では、イギリスの首相が魔法大臣コーネリウス・ファッジから魔法界の戦争について知らされる。橋の崩落や殺人など、これまで魔法とは無関係に見えていた事件までヴォルデモートたちの活動によるものだった。前作までホグワーツ中心だった物語が、普通の人間の世界にまで広がっている。

そして第二章「スピナーズ・エンド」から、いきなりスネイプが怪しい。

ドラコ・マルフォイにヴォルデモートから危険な任務が与えられ、それを知った母ナルシッサがスネイプに助けを求める。スネイプは「破れぬ誓い」という魔法の契約を結び、ドラコを助け、必要なら彼の代わりに任務を果たすと約束する。

この時点では、スネイプがヴォルデモート側なのかダンブルドア側なのか、ますます分からなくなる。

ホグワーツでは、スラグホーンという新しい魔法薬学の教師が登場する。才能のある生徒や有力者の子供を集める「スラグ・クラブ」を作る人物で、ハリーもその人脈の一員として目をつけられる。こういう、戦争中でも人脈を集めて楽しそうに社交する大人がいるのも面白い。

そして「謎のプリンス」の名前が出てくる。

魔法薬学の授業でハリーが偶然手にした古い教科書には、前の持ち主による大量の書き込みがある。教科書の指示よりうまく薬を作れるほど有用な書き込みで、ハリーはその方法を使って授業で次々と成果を出す。最後に本の持ち主として書かれているのが「半純血のプリンス」である。

一方、ダンブルドアはハリーに個人授業を始める。

目的はヴォルデモートの過去を知ること。ダンブルドアは「敵を倒すには、その人間がどういう人間なのかを知らなければならない」と考え、憂いの篩という記憶を見る魔法道具を使って、若き日のトム・リドルについて調べていく。

そこで分かってくるのが、ヴォルデモートの家系である。

母親はメローピ・ゴーント。ゴーント家はスリザリンの血を引く一族だが、純血主義に異常なほど固執する一方、実際には貧しく荒廃している。ヴォルデモートはこの一族の血と、マグルである父親トム・リドルの血を受け継いでいた。つまり、純血主義を掲げるヴォルデモート自身が「純血」ではない。

そして、物語の核心になるのが「分霊箱」である。

分霊箱とは、殺人によって魂を引き裂き、その一部を物に隠しておく魔法である。肉体が滅びても魂の一部が残るため、ヴォルデモートは死を完全に避けようとしていた。

実は『秘密の部屋』でハリーが破壊したトム・リドルの日記も分霊箱だった。ダンブルドアが破壊したゴーント家の指輪もそうだった。

そしてヴォルデモートは、一つではなく複数の分霊箱を作ったらしい。

ここで、これまでのシリーズに登場した小道具の意味が変わってくる。スリザリンのロケットやハッフルパフのカップなど、単なる古い品物ではなく、ヴォルデモートの魂を隠す器である可能性が出てくる。ダンブルドアとハリーの目的は、ヴォルデモート本人と戦うだけではない。分霊箱をすべて見つけて破壊することになる。

その一方で、ドラコも動いている。

ヴォルデモートから与えられた任務は、ホグワーツに侵入させた死喰い人たちを使い、ダンブルドアを殺すこと。まだ十代のドラコにとっては、とても実行できそうにない仕事である。

ハリーはドラコを疑い、彼の行動を追いかける。そして「セクタムセンプラ」という危険な呪文を謎のプリンスの教科書から覚え、ドラコとの決闘で使ってしまう。ドラコは血まみれになり、ハリーは自分が使った呪文の恐ろしさを知る。

そして最後。

ダンブルドアとハリーは分霊箱を探すため、洞窟へ向かう。そこでヴォルデモートが隠した分霊箱を手に入れるが、実はそれは偽物だった。

ホグワーツへ戻ると、ドラコが死喰い人たちを城内へ侵入させている。

天文塔でダンブルドアとドラコが対峙する。ドラコはダンブルドアを殺すことができない。そこへスネイプが現れる。

そしてスネイプがダンブルドアを殺す。

ハリーはその光景を目の前で見る。

スネイプを追ったハリーに対し、スネイプは自分こそが「謎のプリンス」だったことを明かす。教科書に書かれていた魔法や薬の改良を考えたのもスネイプだった。つまり、ハリーが便利に使っていた知識の持ち主は、ずっと身近にいた人物だった。

ここで『謎のプリンス』の結末はかなり明確になる。

ダンブルドアは死んだ。

そしてスネイプはダンブルドアを殺した。

さらに、ヴォルデモートを倒すには分霊箱をすべて破壊しなければならないことも分かった。ハリーはロンとハーマイオニーとともに、残りの分霊箱を探すことを決める。

つまり次の『死の秘宝』では、もう学校に戻って授業を受けながら事件を解決する話ではない。ハリーたちはホグワーツを離れ、ヴォルデモートの魂を一つずつ破壊する旅に出る。

そして何より気になるのがスネイプである。

本当に裏切ったのか。ダンブルドアはなぜスネイプに殺されることを受け入れたのか。「半純血のプリンス」という名前には何の意味があるのか。

『謎のプリンス』は、ここまで積み上げてきた人物や出来事の意味を一気に組み替える巻でもある。ダンブルドアという絶対的な存在まで失われ、ハリーはもう守られる側ではいられない。

最後に残る確信は一つ。

ヴォルデモートを倒すには、ヴォルデモート自身だけを倒しても足りない。

その魂を分けて隠した分霊箱をすべて見つけなければならない。

そして、その仕事をするのはハリー自身である。ここまで来ると、最終巻で何が起こるのかというより、「ハリーがどこまで自分で決断して進めるのか」が気になってくる一冊である。

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